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脱成長から考える地方都市の暮らしとこれから

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脱成長から考える地方都市の暮らしとこれから
人新世の「資本論」 / 斎藤幸平 を読んで

今回は、「SDGsは資本主義の辛い現実が引き起こす苦悩をやわらげる「大衆のアヘン」だという」、ちょっと構えてしまうような言葉からはじまる、87年生まれの若き哲学者/経済思想研究者によって書かれた『「人新生」の資本論』を紹介したい。
(SDGsの理念や内容そのものには賛同するが、再生エネルギービジネスなどと同じように経済優先の資本主義の中に組み込まれ、消費を喚起するテーマの一つとして使用されている現状には疑問が多い。)
そもそも著者はなぜ19世紀の思想家カール・マルクスよって資本主義という経済システムについてかかれた資本論を持ち出してこれからのことを考えているのだろうか。斎藤幸平さんはマルクス研究者でもあり、ソ連のような社会主義の印象が強いマルクスの思想を、資本論出版後に発見された膨大な資料を読み直すことによって、資本主義がもたらしている社会への影響を的確に分析し、さらには今まで語られることのなかった環境問題にまで踏み込んだ晩年のマルクスによる研究から、これからの社会の進むべき道筋を提示してくれている。読みながら感じたこととしては、現代では複雑に入り組みすぎた資本主義の初期のシンプルな形とそこに内在された問題点を実体験として経験し、そこから得た考えを克明に記録したのがマルクスという人物だとしたら、今の時代にこそ、その考えにはとても価値がある。

本書の大きな流れとしては、気候変動の危機の原因として、資本主義が巨大で制御不能になったことによる様々な問題を取り上げ、それでも成長を続けながら発展していけるはずだと言う現在のメインストリームになっているような知識人の意見に対して丁寧に反論し、自前の「脱成長コミュニズム」という論理を展開するといった内容だ。著者は、資本主義に変わって「脱成長コミュニズム」(高度なコミュニティの自治と相互扶助が実現され経済成長をスローダウンさせる社会の実現)がこれからの危機を乗り越えるには必要不可欠だと言う。
本書に関する書評はネットに溢れているので、ここからは本書を読み、では地方都市って、田舎ってどうなの?ということを少し考えてみた。

まず、都会と違って田舎は人と人、人と自然との距離感が近く、自分たちの生活が環境に負荷を与えているという認識が現実問題として感じられる。農作物の育ち方や、大規模農業が土地に与える影響、気候の変化による災害の影響などがそうだ。環境の負荷が見えやすい分、環境へ対する意識も自ずと高くなりやすい。社会的な構造に関しても、様々な階層の人が交わる機会が多く、民間と行政の距離が近いのでそれぞれの境遇を知ることができる。そして何より、都市部に比べてエネルギーの消費量は少ないし、水は井戸水、食料の自給率も高い。これって、資本主義と脱成長コミュニズムの中間のような位置なのではないか?
そもそも田舎は都市に対して、資本主義による経済的合理性の影響を受けにくいこともあり、部分的に資本主義以前の姿が残っているとも言える。
そして、まるで社会の要請かのように進む田舎の少子化・高齢化によって必然的に脱成長への舵を切る以外の道は残されていないという現実。この現状を直視すれば、自ずとそこに対して抗わずに受け入れ共生していく道が見えてくるように思える。
現在の、成長を目的とした施策や人々の価値観を「高度なコミュニティの自治と相互扶助が実現され経済成長をスローダウンさせる社会」の実現に切り替える。とても大雑把で楽観的だが、それだけでずっと良くなる気がする。

もちろんそこで行うのはトップダウン型の国の政策からではなく、各地域ごとに違った、人々の暮らしを変えていくこと。価値観をアップデートさせながら今の技術を携えて江戸時代に戻るようなことが可能かどうかはわからないが、なんだかそれって楽しそうだなという感覚はある。現状が安定していて安心だと言う考えを捨てて、懐かしくて新しい方へ。みんなで行けば怖くない。

他にも色々と書きたいことは沢山あるが、なにより読んでほしい。
これまでの考えを超えて、新しい価値観が芽生えるような本になっている。
こちらからぜひ、

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人新世の「資本論」 / 斎藤幸平

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