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Column

「懐かしい未来」を読んでこの町のことを考えてみた(前編)

懐かしい未来 ラダックから学ぶ (山と渓谷社)
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最近読んだ本で何がオススメですか?と聞かれたら答えるこの1冊。
自分にとって面白いと思う本は、価値観を書き換えてくれたり、今まで見ていた景色が違ったように見えるきっかけになるような本が多い。そういう意味でこの本は、うきは市吉井町という場所で5年半本屋を営んできて感じた違和感の正体とまでは言わないが、シルエットのようなもを捉えるきっかけになったように思う。
折角なので、自分自身の備忘録と本の紹介ということでコラムを書いてみたい。

本書は、何世紀ものあいだ、外界の影響をほとんど受けることなく、自足的な生活が営まれていたインド北部の山岳地方にあるラダックという場所に、近代文明や資本主義が入り込み、これまでの伝統的な社会がどのように変化していったかが記録されている。

これまでは閉ざされた場所で外界の影響を受ける事なく暮らしていた人々が、徐々に押し寄せてくる西洋文化と出会い、そして、自分たちと伝統文明を対比することで貧しさを覚えるようになり、コミュニティは少しずつ分断を余儀なくされる。資本が入ってくることで、貨幣に頼らざるを得ない生活に移行し、日々を忙しく過ごすことでこころの余裕を失っていく。そしてなにより、持続可能な生活から消費するだけの生活に移行したことにより環境がどんどん破壊されていく。
いわゆるステレオタイプな説明なのだが、この本で重要なのは、著者は殆どラダックが西洋の影響を受けていない時から訪れていて、西洋文化と伝統的な文化が衝突することによるインパクトと変化を実感として捉えることが出来、それを記録していたことだと思う。その実感から得られる教訓や危機感は、ただ上記のような説明をされることとは全く違った意味をもってくる。序文に記された以下の文章にもそれが表れている。

「ラダックで私が見たものは、廃棄物も汚染もなく、犯罪は事実上存在せず、地域共同体は健全で結束力が高く、十代の少年が母親や祖母に優しく愛情深く接するのに決して気後れすることのないような社会であった。そうした社会が近代化の圧力のもとで解体しはじめているとき、この教訓はラダックを超え、意義を持つ。」

その実感から著者は、従来型の経済成長を前提とした開発ではなく、自尊心と自立心を促し、生活を豊かに維持するために必要な多様性を保護し、地域を基盤とする、本来の意味での持続可能な開発「カウンターデベロップメント」という理念を掲げその活動をはじめ現在に至るまで46年間にわたってラダックに関わりつづけている。それは、伝統的な暮らしを肯定するような演劇を使った方法だったり、持続可能な方法を使ったエネルギーや住居に関することなど様々だ。

ここまでで、少しでも興味を持たれた方は是非とも本書を読んでみてほしいと思う。
そして、ここからは本書を読んで、僕がこの町で生まれ育ってから今までに実感したことが繋がっていった感覚を少し書きたいと思う・・(後篇に続く)

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